ごめんよ、やっさん。



高知市内で小さなこだわりの料理屋を営んでいたやっさん。

自慢の伊勢エビ汁を僕に勧め、ハーモニカを吹きながら「若い頃は悪いことばっかりしよった!!」って、昔の武勇伝を照れながら語っていたやっさん。

喧嘩で負けたことはないとうそぶいていたやっさんなのに、やはり病気には勝てなかった。

あらゆる内臓に転移した癌と闘いながらもがんばって店を続けていたやっさんは、13日に、65年の人生を静かに終えた。

以前、ある方の紹介で、阪神タイガースの平田元選手(現監督付き広報担当)と、吉武元選手(現1軍コーチ)を囲んで、やっさんの店で、インタビューを兼ねて飲んだことがある。

一通り料理を出し終えると、子供みたいにはしゃぎながらグラスとハーモニカを持って飛んできたやっさんの声と、かなりリズムの外れたハーモニカの音色が、よりいっそう懐かしく切なく思い出される。

「わしが作った歌に、是非佳ちゃんに伴奏を付けてもらいたい!!」

「よっしゃ! わかった!! ばっちり付けちゃるきね♪♪」

それから2年以上、機会が無くて僕は店に行かなかったし、やっさんは 「佳ちゃんは忙しいから無理は言われん」って、ずっと催促もせずに僕が行く日を待っていたという。

そしてやっさんが亡くなった後で、1本のカセットテープを奥さんが見つけた。

やっさんはその歌を僕に聞かせるために、アカペラの小さな声で、自分のラジカセにこっそり録音していたらしい。

音程もリズムもはちゃめちゃなやっさんなのに!!

久々に悔し涙がこぼれた。

やっさん、ごめんよ。


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