とにかく生きよう
生きていこう
今週の番組に電話出演していただくサクラメントのMR. Henry Mizushimaからのメールが気になって3時に起床!!
何しろカリフォルニアとは時差が16時間有るため、あちらでは今が3日のお昼なのだ!!
ヘンリーさんはカリフォルニアステートフェアーに参加する僕達をボランティアでサポートしてくださってる方で、日本語も大変堪能なので助かる。
番組への出演も快く承諾してくださったので一安心してベランダに出てみた。
また雨の朝だ。
そういえば昨日の朝はまるで秋を思わせるような涼しい空気で満たされていた。
そしてそんな空気を呼吸するにつけ、健康で生きてるだけで十分幸せだって心から感謝した。
お袋から電話があったのは先週末のこと。
「じゅんちゃんが喉頭癌で……」・・・・・
そこまで言って声を詰まらせたお袋。
お袋は1934年(昭和9年)に今の中村市有岡で生まれた。
兄弟は弟と妹の3人。
貧しいながらも幸せに暮らしていたが、9歳の時に相次いで両親を亡くし、それからは兄弟3人親戚のお婆さんに育てられた。
そしてそれぞれに成人し仕事に就いたが、妹のみっちゃんは心臓に病気を抱えていて、30歳代でこの世を去った。
結婚してからも、唯一何でも相談できる存在だった妹を亡くしたお袋は、悲しみに暮れた。
そしてこの世でたった一人の肉親となった弟のじゅんちゃんは、お袋にとって時には頼り時には心配で胸を痛めながら、いつでも繋がっている心のよりどころとなった。
「喉頭癌でどうした?」
「喉頭癌で・・・・・」
「手術をするんやね??」
「声が…声が出んようになるって〜……」。
「そうか、でも手術で命が助かるんやったら良かったやん!!」
「ずっと抗ガン剤やら放射線で治療しよったらしいのに私に全然言うてくれんがよ〜……」
「じゅんちゃんのことやし、いらん心配はかけたくないって思ったんやろうね!!」
「なんで早う言うてくれん?って怒ったら『姉ちゃんに言うて心配させても癌は無くならんやろう!それやったら自分でがんばって闘病する方がえいやんか!』やって!!」
「なるほど、じゅんちゃんらしいね!!」
「あの子ったら『わしの最後の肉声を聴かしちゃろうと思うて電話しちゃったがよ!』って笑いながら言うがで!!
しかも私が泣きよったら『佳もあんなにがんばって生きていきゆうじゃいか! 声を失うくらいでわしが挫けられるか!!』って……」
「・・・・・」
さすがにここまでくると言葉が出なかった。
確かにそうだ!
長年銀行に勤める傍ら、一所懸命剣道に打ち込んでいたじゅんちゃんの、あの明るく快活な話し声や笑い声がもう二度と聴けなくなる!!
目の見えない僕達は、その人が誰であるかを主に声で判別する。
だから僕にとっては、じゅんちゃんの姿が見えなくなるにも等しいのだ!!
涙で胸が詰まった。
「火曜日が手術だから、月曜日にみんなでお見舞いに行こうね」
「わかった。」
そういうわけで、前夜の集中豪雨でどうしても午前中役所を休めなかった姉を待って、両親と姉と4人で大学病院を訪ねた。
腰椎の圧迫骨折でギプスを巻いているお袋にとって、宿毛からの3時間の乗車は相当辛かったはずなのに、うちのマンションで休もうともしない。
病院の駐車場に着くと、いつもなら真っ先に僕の手引きをしようとするお袋が、まるで何か強い力に引き寄せられるように、足を運ぶのももどかしくドンドン先に立って歩いていく。
「お母ちゃんは… お母ちゃんは早うじゅんちゃんの顔を見とうてたまらんがやね!」
姉が僕の手引きをしながら耳元で小さく言った。
病室に入ると、想像したとおり、じゅんちゃんはいつものように明るく元気だった。
何を訊いても「心配しても怖がってもしかたないじゃないか!!」と豪快に笑い飛ばす!!
声帯摘出後の発声訓練などの話をする僕に「そんな先のことを言うてもいかんいかん! 先生にお任せした以上言われたことを確実にやっていくだけよ!!」と振り払うように笑う。
3年前に僕が受けた大脳動脈瘤の手術前日のことがよみがえる。
不安でないわけがない。
怖くないはずがない。
強い人だと思った。
優しい人だと思った。
病院を出て駐車場を歩きながらお袋が言った。
「一生光を失うことが解っていながら受けた佳の目の手術と、一生声を失うことが解っていながら受ける今回のじゅんちゃんの手術が私の中で重なって……
命を救うためとはいえ残酷なものよねぇ……」・・・・・
誰も相づちを打つことすらできなかった。
手術は喉頭や気管上部を周りのリンパごと切除し、小腸の一部を切り取って代用するというもので、昨日の午前8時半に入って、すくなくとも深夜12時くらいまではかかるという大がかりなもの。
4時を過ぎたので、いくらなんでもこの時間にはもう終わってるはずだけど……
とにかく良予後であることを心から祈る。
そしてじゅんちゃんが言った言葉
「佳もあんなにがんばって生きていきゆう……」
僕が生きてるだけで本当に勇気を持ってもらえるのなら、とにかく今を精一杯生きようって心に誓った。
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